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宮崎地方裁判所 昭和39年(ワ)98号 判決 1965年3月26日

原告 鬼塚一

被告 宮崎三洋株式会社 外一名

主文

被告宮崎三洋株式会社は原告に対し、別紙目録<省略>記載の土地につき宮崎地方法務局昭和三八年一〇月三〇日受付第二二四五四号をもつてなした債権極度額金八〇万円、債務者訴外奉養康和とする根抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。

被告川崎真平に対する請求はこれを却下する。

訴訟費用は原告と被告川崎真平間においては原告の負担とし、原告と被告宮崎三洋株式会社間においては原告に生じた費用中二分の一を同被告の負担とし、その余は各自負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一項同旨並びに「予備的に、被告川崎真平は原告に対し金八〇万円及びこれに対する昭和三八年一〇月三一日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

一、本件土地はもと被告川崎真平の所有であつたが、原告が昭和三八年二月一四日これを買受け、同年五月一日までに代金五一万円を完済した。

二、その後訴外奉養康和が原告に対し右土地を売却して貰いたい、そしてこの物件を被告宮崎三洋株式会社(以下被告宮崎三洋という)に抵当に入れたい旨申し込んできたので原告はこれを了承し、同年九月頃、原被告等及び右訴外人間において、訴外奉養が同年九月一四日までに代金を支払うことを条件として原告が同訴外人に売渡す旨の売買予約をなし、登記は原告を省略して訴外川崎真平より直接訴外奉養に対してこれを行うこと等の約束ができた。

三、しかし訴外奉養は約束の期日に代金の支払をしなかつたので原告と訴外奉養間の右売買予約は効力を失つた。

かりに前記約束が売買予約でなく、県知事の許可を条件とする売買契約であつたとしても、買主訴外奉養は、代金支払期日である昭和三八年九月一四日に代金の支払をしなかつた。そこで原告は同日右訴外人に対し代金支払の催告をし、なお支払がなかつたので翌一五日右売買契約解除の意思表示をし同日到達した。

なお原告は昭和三八年九月一五日、訴外川上司法書士方において訴外奉養及び被告宮崎三洋の社員に対し、前記契約は御破算にして改めて代金ができたときまた相談にのるから一切の手続は取りやめて貰いたい旨申入れ、ついで翌日被告川崎方を訪れ同様趣旨を申入れ、いずれも同人等の了解を得た。

四、このように原告と訴外奉養間の契約は解消し、前記関係者等は、登記等の手続はしない旨約したにも拘らず、原告不知の間に、被告川崎は、被告宮崎三洋の要求により、本件土地に、請求の趣旨記載の如き根抵当権設定登記をした。

五、右登記は、被告宮崎三洋が原告の権利を害することを知りながらしたものであつて効力なく抹消せらるべきものである。そして原告は被告川崎に対し前記売買契約に基く条件付所有権移転登記請求権を有するところ、被告川崎は右土地に設定せられた無効な根抵当権設定登記を抹消しないので同被告に代位し、被告宮崎三洋に対し右根抵当権設定登記の抹消登記手続を求める。

六、かりに被告宮崎三洋に対する右請求が認められないとすれば、被告川崎が、前記被告宮崎三洋の登記手続に協力したことによつて、原告は前記土地の価値を失つてしまつた。右は被告川崎の故意若しくは重大な過失によるものであつて、同被告はこれによつて生じた損害を賠償する義務がある。そして同損害額は、土地の価格金八〇万円に相当するので予備的に同被告に対し、右金員及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和三九年四月七日から右支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める、とのべた。

立証<省略>

被告等訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

一、原告請求原因事実中、第一項、同第二項中、中間省略登記の約束ができたこと、及び同第四項中、本件土地にその主張のような根抵当権設定登記がなされていること等の事実は認めるもその余の事実は争う。

二、本件土地は被告川崎の所有であつたが、原告を経て訴外奉養がこれを買受けたものであるところ、昭和三八年九月七日頃被告川崎方で、原告、被告両名及び訴外奉養間において、本件土地について被告川崎より訴外奉養に直接所有権移転登記をし、被告宮崎三洋はこれに根抵当権の設定登記をし、直接登記することに伴い被告川崎において増加する税金は、原告において負担する旨の契約が成立し、右手続に必要な書類が作成され交付された。

三、そして右契約に基いて被告等は本件登記手続をした。なお被告宮崎三洋が、本件土地について訴外奉養に所有権移転登記手続がなされる前に、被告川崎より本件根抵当権設定登記を受けたのは単なる順序の変更に過ぎず、何等前記契約の趣旨に反するものではない。

四、右のとおり本件登記は有効であり、かりに原告と訴外奉養間の売買契約が解除されたとしても、被告宮崎三洋は右契約により先に取得した権利に基いて右登記をしたものであるからその効力に影響はない。従つて又被告等の行為は不法行為となるものではないとのべた。

立証<省略>

理由

一、本件併合請求の適否について、

原告は本訴において、被告宮崎三洋に対し根抵当権設定登記の抹消登記手続を求めるとともに、予備的に、右被告に対する請求が認められなければ被告川崎真平に対し、右登記によつて蒙つた損害金の支払を求める旨申立てている。右はいわゆる主観的予備的併合にあたるところ、予備的請求の被告の地位は主位的被告の訴訟に依存し甚だ不安定となるばかりでなく、このような併合請求につきなされた判決に対して、共同訴訟人独立の原則から個別に上訴が行われるときは、統一した裁判が期待できなくなり、結局このような併合を認めることによつて得られる原告の手続的利益よりも右欠陥の方がより多いとみられるから、このような併合は許されないものと解する。

そこで本件被告等に対する各請求はこれを分離して審理すべきところ、その結果、被告川崎真平に対する請求は、被告宮崎三洋に対する請求が認容されることを解除条件としている点で、条件付訴訟行為となり不適法な訴となることが明らかである。すると被告川崎に対する本件予備的請求は不適法として却下すべきものである。

二、被告宮崎三洋に対する請求について、

(一)  成立に争のない甲第一号証及び証人川崎ミエ子の証言により真正に成立したと認められる甲第二号証並びに同証言を綜合すると、原告は、昭和三八年二月一四日被告川崎真平所有の本件土地(農地)を代金五一万円にて買受けその頃代金全額を支払つた事実を認定することができ同認定に反する証拠はない。

ところで農地の売買は農地法所定の県知事の許可がなければ効力を生じないところ、本件において被告川崎と原告間の右売買契約にこのような許可があつたことについては立証がない。すると被告川崎と原告間の本件農地売買契約は現在効力を生じていないものというべくただ将来同売買につき県知事の許可があれば、その時から効力を発生する一種の停止条件付契約としての効力を有するに過ぎない。故に原告は右停止条件付売買契約上の買主として、同売主である被告川崎に対し、県知事の許可を法定条件とする所有権移転登記請求権等の買主としての債権を有するものというべきである。

(二)  そこでこのような条件付債権者がその権利を保全するため、民法第四二三条に従い債務者の権利を代位行使することができるかどうかを考えるに、右農地売買における県知事の許可は、右契約を完成させる法定条件であつて、民法所定の「条件」ではないが、これに類似するものとして、「条件」に関する同法第一二九条を類推適用すべきものと解する。従つて右許可のない農地の買主は、前記法定条件付所有権移転登記請求権その他買主として有する債権を保全するため、一般の債権の例に従い、同法第四二三条の債権者代位権を行使することができるものといわねばならない。尤も同条は、債権者代位権を行使せんとする債権者の債権が履行期にあることを要件とし、その債権が期限未到来のものであれば、裁判上の代位によらなければこれを行使することができない旨規定し、期限到来前の債権者の代位権行使を制限している趣旨に照せば、本件の如き停止条件付債権者の場合も、右期限未到来の債権者の場合と同様、裁判上の代位によらしめるのが相当であると解する。

そして本件においては、原告が、本訴提起前、右裁判上の代位に関する非訟事件手続法所定の裁判所の許可を得ていないことは、本件弁論の全趣旨に照し明らかであるが、本件の如く、代位権を訴の形式により行使する場合は、同訴訟手続中において右代位権行使の適否を併せて審査できるものと解すべく、あらかじめ非訟事件手続法による裁判所の代位許可を得ていないからといつて、右訴による代位権行使を排斥することはできないものといわねばならない。

裁判上の代位に関する非訟事件手続は、非訟事件手続法第七二条において規定するように、債権者が自己の債権の期限前(又は停止条件成就前)に債務者の権利を行使しなければ、その債権の保全が不可能若しくは困難となる虞があるかどうかについて裁判所の判断を受け、このような要件が満される債権者にのみ国家が代位行使を許可し、もつて期限前の債権者の代位権行使につき生ずる将来の私人間の紛争を予防することを目的としているものであるところ、本来非訟手続において審査される右代位についての諸要件は、期限前の債権者が代位権を行使する場合の実質的要件にほかならず、若し同代位権行使の際に右要件の有無に関し紛争を生じたときは、当事者は民事訴訟手続によつてこれを解決すべき性質のものであつて、その審理の対象が民事訴訟手続に親しまないものとは到底解されない。従つて右のような債権者が裁判外において代位をしようとする場合は右非訟事件手続法が存在するのであるから必ず、あらかじめ右代位するについての要件の有無について裁判所の審査を受け許可を得た上でなければ代位をすることができないが、訴の方法により代位権を行使する場合は、右非訟手続によつてあらかじめ予防的に同要件の有無の審査を経ておくか或は当該訴訟手続中において同要件を主張立証し、もつて右非訟手続以上の厳格な手続において代位権行使の容認を受けるかは債権者の意思により自由に決定することができるものというべく、債権者が本来的な手続において同要件の判断を希望するならばこれを排斥する理由なく、またこのように解することによつて手続経済の観念にも沿うものといわねばならない。

(三)  よつてつぎに、被告川崎が被告宮崎三洋に対して本件根抵当権設定登記の抹消登記請求権を有し、且つ原告が被告川崎の有する右権利を代位行使する必要があるかどうかにつき判断する。本件土地に根抵当権者を被告宮崎三洋、債務者を訴外奉養康和とする根抵当権設定登記がなされていることは当事者間に争いないところ、成立に争のない甲第一号証及び乙第一号証、証人柳沢毅尚の証言により真正に成立したと認められる乙第三号証の一及び二、同第五及び第六号証並びに証人大野惟孝、同川上俊夫、同川崎ミエ子の各証言を綜合すると、原告は前述の如く本件土地を、被告川崎真平より買受けて後、昭和三八年八月頃これを電気製品販売業を営む訴外奉養康和に代金七五万円にて売却し、ついで訴外奉養は、被告宮崎三洋のために金八〇万円の根抵当権を設定する旨契約を締結し、原告との間においては、訴外奉養が右被告宮崎三洋に対する根抵当設定後同被告より電気製品を購入し、これを販売して得た金員を本件土地代金として原告に支払う旨約し、原告もこれを了承したこと、そして原告の承諾を得て、中間取得者である原告を省略し、売主である被告川崎より転得者の訴外奉養に対し直接本件土地について県知事に対する農地法第五条に基く許可申請手続をとり始めたところ、買主である訴外奉養に右農地転用資金の証明ができず、右許可申請書類が整備されなかつたので、右県知事の許可は勿論所有権移転登記も早急にできない状況となつたこと、そこで同年九月七日、被告川崎、原告、訴外奉養及び被告宮崎三洋等関係者が協議した結果、とりあえず本件土地につき被告川崎所有名義のまま被告宮崎三洋のため前記の如き根抵当権設定登記をする、所有権移転に関する許可申請並びに登記手続は後日書類整備の上行うことにするが、そのため名義人である被告川崎に生ずる本件土地に関する固定資産税等の経費は、原告において負担する旨約束ができ、その結果、本件土地に前記の如き根抵当権設定登記がなされたこと、しかし訴外奉養は、被告宮崎三洋とその後取引をし約金六五万円相当の商品を購入しながらその代金を支払わず、また原告に対しても本件土地の代金を支払わないまま、同年九月下旬頃行方をくらましてしまつたこと、そこで被告宮崎三洋は前記根抵当権に基き、昭和三八年一二月二七日本件土地につき競売申立をし、現在競売手続続行中であること等の事実を認定することができ、同認定に反する証拠はない。

右事実によると、訴外奉養の債務のためになした被告川崎と被告宮崎三洋間の根抵当権設定契約は、訴外奉養が県知事の許可を得て右土地につき所有権を取得することを停止条件として、締結されたものとみるべきであつて、被告川崎と原告、原告と訴外奉養間の各売買契約の効力発生とは無関係に、被告川崎と被告宮崎三洋間に締結されたものとみることはできない。

そして右認定によると、訴外奉養に対する本件土地の所有権移転は、同人が代金の支払をせず他に逐電してしまつた現在、もはや県知事から農地法第五条による許可を受ける見込は全くなくなつたものというべく、訴外奉養の本件売買契約に基く所有権取得は停止条件不成就により確定的に失効したものといわねばならない。すると右売買契約の発効を停止条件とした被告川崎と被告宮崎三洋間の本件根抵当権設定契約もこれに従つて失効し、被告川崎は被告宮崎三洋に対し本件根抵当権設定登記の抹消登記手続請求権を取得したものとみなければならない。

すると本件土地については現在被告川崎と原告間の売買契約が存続していると解すべきところ、同売買契約は県知事の許可を条件とするが、原告は約七反位の農地を耕作して農業に従事している者であることが原告本人尋問の結果により明らかであり原告に対し農地法第三条による許可がなされる可能性は充分認められる上、現在、目的土地は前記根抵当権の実行として競売手続が進められている点に照せば、原告は右停止条件付所有権移転登記請求権等の買主として取得すべき権利を保全するため右土地につき設定されている右無効な根抵当権設定登記を抹消する必要があるものというべく、右県知事の許可のあるのを待つて右抹消登記請求権を代位行使するとすれば、或は前記競売手続が完了することも予想され、原告の右権利を保全するのに困難を生ずる虞(非訟事件手続法第七二条)が認められるので原告の本件停止条件付債権に基く代位権行使は許されるものと考える。

すると原告の被告宮崎三洋に対する請求は理由がある。

三、よつて原告の被告川崎に対する請求を却下し、被告宮崎三洋に対する請求を正当として認容し、仮執行宣言は不相当であるから同申立を却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 井上孝一)

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